総持寺完全ガイド|大阪・茨木と横浜鶴見の二大霊場の歴史と参拝情報
総持寺という名前の寺院は、日本に二つの著名な霊場が存在します。一つは大阪府茨木市にある高野山真言宗の寺院で西国三十三所第22番札所として知られる総持寺、もう一つは神奈川県横浜市鶴見区にある曹洞宗大本山の總持寺です。両寺院とも長い歴史と独自の信仰を持ち、毎年多くの参拝者が訪れる重要な宗教施設となっています。
本記事では、これら二つの総持寺について、その歴史的背景、御本尊、境内の見どころ、年間行事、アクセス方法まで、参拝に役立つ情報を網羅的に解説します。
総持寺とは|二つの名刹の概要
「総持寺」という寺号は、仏教における「総持」という言葉に由来します。総持とは、すべての功徳を保持し、すべての衆生を救済するという意味を持ち、特に観音菩薩の慈悲の働きを表す言葉として用いられてきました。
大阪・茨木の総持寺(補陀洛山総持寺)
大阪府茨木市に位置する総持寺は、山号を補陀洛山(ふだらくさん)といい、高野山真言宗に属する寺院です。西国三十三所観音霊場の第22番札所として、古くから多くの巡礼者を迎えてきました。御本尊は千手観音で、「亀に乗った観音様」として有名です。
平安時代の仁和年間(885年-889年)に創建されたと伝えられ、開基は中納言藤原山蔭卿です。藤原山蔭は料理道の祖としても知られ、四条流庖丁道という新たな庖丁式(料理作法)を定めたことから、料理人の信仰を集める寺院としても有名です。毎年4月18日には「山蔭流庖丁式」という伝統的な儀式が執り行われ、多くの料理関係者が参列します。
神奈川・横浜鶴見の總持寺(曹洞宗大本山)
神奈川県横浜市鶴見区にある總持寺は、永平寺と並ぶ日本曹洞宗の二大本山の一つです。もとは石川県輪島市門前町(旧能登国櫛比庄)において、瑩山紹瑾(けいざんじょうきん)が1321年(元亨元年)に開いた禅寺でした。
1898年(明治31年)の大火災により能登の伽藍の多くを失ったことを機に、1911年(明治44年)に現在の横浜市鶴見区へ移転しました。境内は約50万平方メートルにも及ぶ広大な敷地を有し、仏殿、大祖堂をはじめとした荘厳な寺院施設が建ち並びます。また、幼稚園から大学まで敷地内に有しており、教育機関としての役割も果たしています。
大阪・茨木総持寺の歴史と由来
創建の由来と藤原山蔭卿
茨木の総持寺は、平安時代の仁和年間(885年-889年)に中納言藤原山蔭によって創建されました。伝承によれば、山蔭卿の父である藤原高藤が摂津国を旅していた際、淀川で溺れそうになったところを一匹の亀に助けられたという出来事がありました。
その後、山蔭卿は父の恩に報いるため、また亀の恩に感謝するために、千手観音像を造立することを発願しました。山蔭卿は千日間にわたり、仏師に毎日料理を供えながら本尊の造立を祈念したと伝えられています。この縁により、山蔭卿は我が国包丁道の祖として祀られるようになりました。
完成した千手観音像は、亀の背に乗った姿で表現され、「亀に乗った観音様」として現在も信仰を集めています。この本尊は子育て観音、火除け観音、厄除け観音としても知られ、様々な願いを持つ参拝者が訪れます。
西国三十三所第22番札所としての歴史
総持寺は西国三十三所観音霊場の第22番札所として、長い巡礼の歴史を持ちます。西国三十三所は日本最古の巡礼路とされ、奈良時代に徳道上人によって開かれたと伝えられています。
江戸時代以降、庶民の間で西国巡礼が広まると、総持寺にも多くの巡礼者が訪れるようになりました。現在でも札所として、納経所では御朱印を受けることができ、巡礼者だけでなく一般の参拝者にも人気があります。
横浜・鶴見總持寺の歴史と移転
能登時代の總持寺
曹洞宗大本山總持寺は、もともと石川県輪島市門前町にありました。1321年(元亨元年)、曹洞宗第四祖である瑩山紹瑾が、それまで真言宗の寺院であった諸嶽寺を曹洞宗の寺院として改め、總持寺と改称したのが始まりです。
瑩山禅師は道元禅師の教えを受け継ぎ、曹洞宗の発展に大きく貢献した高僧です。總持寺は永平寺と並ぶ曹洞宗の中心寺院として、能登の地で約580年間にわたり多くの修行僧を育ててきました。
明治の大火と横浜への移転
1898年(明治31年)4月13日、能登の總持寺は大火災に見舞われ、山門と経蔵を除くほとんどの伽藍を失いました。この災害を契機として、交通の便が良く、近代化が進む横浜への移転が決定されました。
1911年(明治44年)、現在の横浜市鶴見区の地に移転が完了し、新たな大本山として再出発しました。能登の旧總持寺は「總持寺祖院」として現在も残り、曹洞宗の重要な寺院として維持されています。
横浜への移転後、總持寺は首都圏における曹洞宗の中心寺院として発展し、広大な境内には多くの堂宇が建立されました。現在では年間を通じて多くの参拝者や観光客が訪れる、横浜を代表する寺院の一つとなっています。
茨木総持寺の御本尊と諸仏
千手観音菩薩(御本尊)
茨木総持寺の御本尊は千手観音菩薩です。この観音様は、前述の通り亀の背に乗った姿で表現されており、「亀乗観音」として親しまれています。千手観音は文字通り千本の手を持つとされ、それぞれの手に様々な法具を持ち、あらゆる衆生を救済する力を持つとされています。
総持寺の千手観音は、特に子育て、火除け、厄除けの観音様として信仰され、子どもの健やかな成長を願う親や、災難除けを願う人々が多く参拝します。
その他の諸仏と神々
総持寺では御本尊の千手観音の他にも、多くの仏様や神様がおまつりされています。
- 薬師如来: 病気平癒や健康長寿を願う人々の信仰を集めています
- 地蔵菩薩: 子どもの守護仏として知られ、水子供養なども行われています
- 不動明王: 煩悩を断ち切り、災難を払う明王として信仰されています
- 弘法大師(空海): 真言宗の開祖として祀られています
- 稲荷大明神: 商売繁盛や五穀豊穣の神として信仰されています
- 如来荒神: 台所の神として料理人からの信仰を集めています
これらの諸仏諸尊が一堂に祀られていることから、総持寺は「皆様の願いを総て持ち備えた仏様のお寺」と表現されています。
鶴見總持寺の主要伽藍
三門(山門)
總持寺の正面入口となる三門は、禅宗寺院の象徴的な建築物です。この門をくぐることで、俗世から仏の世界へと入る境界を越えるとされています。
仏殿
本尊釈迦牟尼仏を安置する仏殿は、總持寺の中心的な堂宇です。朝課(朝のお勤め)など、重要な法要が営まれる場所となっています。
大祖堂
曹洞宗の歴代祖師を祀る大祖堂は、總持寺最大の建築物です。道元禅師、瑩山禅師をはじめとする歴代の高僧の位牌が安置されています。
三松閣(さんしょうかく)
参拝者の休憩所や法話の会場として使用される施設です。展示スペースもあり、總持寺の歴史や宝物を学ぶことができます。
香積台(こうしゃくだい)
修行僧の食事を作る台所です。禅宗では食事の準備も重要な修行の一つとされ、「典座(てんぞ)」という役職の僧侶が責任を持って行います。
山蔭流庖丁式|料理の神様を祀る寺
藤原山蔭と庖丁道
茨木総持寺の開基である藤原山蔭は、平安時代の貴族であり、日本料理の基礎を確立した人物として知られています。山蔭卿は四条流庖丁道という料理作法を定め、日本料理における包丁の使い方、食材の扱い方、盛り付けの美学などの基本を体系化しました。
この功績により、山蔭卿は「庖丁道の祖」「料理の神様」として崇敬され、総持寺には全国の料理人や調理師が参拝に訪れます。境内には山蔭卿を祀る包丁塚も建立されています。
毎年4月18日の山蔭流庖丁式
総持寺では毎年4月18日に「山蔭流庖丁式」という伝統的な儀式が執り行われます。これは平安時代から続く日本料理の伝統を今に伝える重要な行事です。
庖丁式では、烏帽子と狩衣を身に着けた庖丁師が、まな板の上の食材に一切手を触れることなく、庖丁と真魚箸(まなばし)のみを使って調理する様子が披露されます。鯉や鯛などの魚を優雅な所作で捌く姿は、まさに芸術といえる美しさです。
この行事には全国から料理関係者が集まり、料理技術の向上と食文化の継承を祈願します。一般の参拝者も見学することができ、日本料理の伝統と格式を肌で感じることができる貴重な機会となっています。
年間行事とイベント
茨木総持寺の主な年間行事
- 1月1日-3日: 修正会(新年の法要)
- 2月3日: 節分会(豆まき)
- 4月18日: 山蔭流庖丁式
- 8月9日: 千日まいり(四万六千日の功徳があるとされる)
- 毎月18日: 観音縁日
鶴見總持寺の主な年間行事
- 1月1日-3日: 修正会
- 2月15日: 涅槃会(釈迦の入滅を偲ぶ法要)
- 4月8日: 降誕会(花まつり、釈迦の誕生を祝う)
- 春・秋: 特別坐禅会(一般参加可能)
- 11月: 御征忌(瑩山禅師の命日法要)
両寺院とも、これらの行事以外にも様々な法要や催しが年間を通じて行われています。参拝前に公式サイトや電話で確認すると、より充実した参拝体験ができるでしょう。
アクセス情報
茨木総持寺へのアクセス
住所: 大阪府茨木市総持寺1丁目6-1
電車でのアクセス:
- 阪急京都線「総持寺駅」下車、徒歩約5分
- JR東海道線「JR総持寺駅」下車、徒歩約5分
車でのアクセス:
- 名神高速道路茨木ICから約10分
- 国道171号線からアクセス可能
駐車場: 参拝者用駐車場あり(無料、台数に限りあり)
拝観時間: 6:00-17:00
納経所受付: 8:00-17:00
休日: なし
電話: 072-622-3209
鶴見總持寺へのアクセス
住所: 神奈川県横浜市鶴見区鶴見2丁目1-1
電車でのアクセス:
- JR京浜東北線「鶴見駅」西口下車、徒歩約5分
- 京急本線「京急鶴見駅」下車、徒歩約7分
車でのアクセス:
- 首都高速神奈川1号横羽線「生麦IC」から約5分
- 首都高速神奈川5号大黒線「汐入IC」から約8分
駐車場: 参拝者用駐車場あり(有料の場合あり)
参拝時間: 境内自由(建物内は時間制限あり)
電話: 045-581-6021
参拝のポイントとマナー
茨木総持寺参拝の心得
西国三十三所の札所として参拝する場合は、納経帳や御朱印帳を持参すると良いでしょう。納経所では御朱印をいただくことができます。また、本堂で静かに手を合わせ、千手観音様に願いを込めて参拝しましょう。
料理関係者の方は、包丁塚にも参拝し、料理技術の向上や食の安全を祈願することをお勧めします。
鶴見總持寺参拝の心得
禅宗の大本山という性格上、境内では静かに参拝することが求められます。修行僧が日々修行を行っている場所ですので、大声での会話や写真撮影は控えめにしましょう。
坐禅会や写経会など、一般参加可能なプログラムも定期的に開催されていますので、事前に問い合わせて参加してみるのも良い体験となるでしょう。
周辺の見どころ
茨木総持寺周辺
- 茨木市立文化財資料館: 茨木市の歴史と文化を学べる施設
- 茨木神社: 総持寺から徒歩圏内にある古社
- 中央図書館: 茨木市の文化施設
鶴見總持寺周辺
- 鶴見神社: 鶴見の総鎮守として知られる神社
- 三ツ池公園: 桜の名所として有名な県立公園
- 横浜市歴史博物館: 横浜の歴史を学べる施設
まとめ
総持寺という名の寺院は、大阪府茨木市と神奈川県横浜市鶴見区にそれぞれ存在し、両寺院とも日本の宗教文化において重要な位置を占めています。
茨木の総持寺は、西国三十三所第22番札所として、また料理の神様を祀る寺として、千年以上の歴史を持つ高野山真言宗の名刹です。平安時代の創建以来、千手観音への信仰と藤原山蔭卿の庖丁道の伝統を守り続けています。毎年4月18日の山蔭流庖丁式は、日本料理の伝統を今に伝える貴重な行事として、多くの人々に親しまれています。
一方、鶴見の總持寺は、永平寺と並ぶ曹洞宗の二大本山として、禅の修行道場としての役割を果たしています。能登から横浜への移転という歴史を経て、現在では首都圏における禅の中心地として、多くの修行僧を育成し、一般の参拝者にも禅の教えを広めています。
どちらの総持寺も、それぞれ異なる宗派と歴史を持ちながら、「総持」という名が示すように、すべての人々の願いを受け止め、救済の手を差し伸べる場所として、今日も多くの人々の心の拠り所となっています。
大阪を訪れる際には茨木の総持寺で観音様と料理の神様に、横浜を訪れる際には鶴見の總持寺で禅の精神に触れてみてはいかがでしょうか。それぞれの寺院が持つ独自の魅力と歴史が、きっと心に残る参拝体験をもたらしてくれるはずです。
